
介護業界の採用課題と現状
介護業界の採用市場は年々厳しさを増しています。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、日本は「超」高齢化社会へと突入します。
厚生労働省の調査によると、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要だと予測されています。しかし、2022年度時点の介護職員数は約215万人にとどまっているのが現状です。

令和3年時点での介護職の有効求人倍率は3.65倍。全職種の平均と比べると、3倍以上もの差をつけて高い数値を示しています。この数字が意味するのは、求職者1人に対して約4件の求人があるという厳しい採用環境です。
「介護労働実態調査」によれば、介護サービスを提供する事業所の63.0%が人手不足を感じており、特に訪問介護員については80.6%もの高い割合で人材不足が実感されています。
中小介護事業者が直面する採用の壁
大手介護施設と比較して、中小介護事業者はさらに厳しい採用環境に置かれています。その理由は何でしょうか?
最も大きな壁は「知名度の低さ」です。求職者は知らない施設よりも名前を聞いたことがある施設に応募する傾向があります。また、採用にかけられる予算の制約も大きな課題となっています。高額な求人広告費や人材紹介会社の紹介料は、中小事業者の経営を圧迫しかねません。
さらに、採用業務に割ける人員や時間の不足も深刻です。中小事業者では経営者や現場責任者が採用活動も兼務していることが多く、専任の採用担当者を置くことが難しい状況にあります。

こうした状況の中で、中小介護事業者が効果的な採用戦略を立案し、実行することは容易ではありません。しかし、適切な戦略と工夫次第で、限られたリソースの中でも採用成功率を高めることは可能です。
では、中小介護事業者が取るべき採用戦略とは何でしょうか?
効果的な採用戦略の立案ステップ
採用に成功している中小介護事業者は、どのように戦略を立てているのでしょうか。ここでは、実践的な採用戦略立案の6つのステップを紹介します。
まずは現場の声を聞くことから始めましょう。現場で働くスタッフが求めている人材像を的確に把握することが重要です。「成長意欲のある人材」「介護福祉士の資格を持つ人材」「コミュニケーション能力の高い人材」など、具体的にどのような人材が必要とされているのかを確認しましょう。
1. 採用ニーズの明確化
採用活動を始める前に、以下の点を明確にしておくことが重要です。
- 何人の採用が必要か(職種別・資格別)
- いつまでに採用する必要があるか(採用スケジュール)
- どのようなスキル・経験・人柄が求められるか
- 採用にかけられる予算はいくらか
これらの情報を整理することで、効率的な採用活動が可能になります。特に中小事業者では、「とにかく人手が欲しい」という漠然とした採用活動ではなく、優先順位をつけた戦略的な採用が求められます。
2. 採用ペルソナの設定
次に、採用したい人物像を具体的に想定しましょう。現場の声を踏まえたうえで、採用ペルソナを設定します。
- 年齢層:20代後半〜40代前半
- 経験:介護経験2年以上または未経験でも介護に強い関心
- 資格:介護福祉士、初任者研修修了など(または取得意欲がある)
- 人柄:コミュニケーション能力が高く、チームワークを大切にする
- 価値観:利用者に寄り添うケアを重視、長く働ける環境を求めている
- 居住地:施設から通勤圏内(30分以内が理想)
このように具体的なペルソナを設定することで、求人広告の内容や採用活動の方向性が明確になります。

3. 採用コストの算出
採用にかかるコストを事前に算出しておくことも重要です。中小介護事業者にとって、採用コストは大きな負担となります。
- 求人広告費:求人サイトへの掲載費用
- 人材紹介料:成功報酬型の場合、年収の30〜35%程度
- 採用業務の工数:面接や書類選考にかかる人件費
- 研修費用:入職後の研修にかかるコスト
これらのコストを把握した上で、最適な採用チャネルを選択することが大切です。
中小介護事業者ならではの強みを活かす
大手介護施設と比較して、中小介護事業者には独自の強みがあります。これらを採用戦略に活かすことで、限られたリソースの中でも効果的な採用活動が可能になります。
中小介護事業者の最大の強みは「アットホームな職場環境」です。大規模施設と比べて職員数が少ないため、スタッフ同士の距離が近く、家族的な雰囲気の中で働けることは大きな魅力となります。
また、「意思決定の速さと柔軟性」も強みの一つです。現場の意見が経営層に直接届きやすく、改善提案が迅速に実現することも。さらに、「成長機会の多さ」も中小事業者ならではの魅力です。様々な業務に携わる機会が多く、幅広いスキルを身につけられる環境があります。
関西地方の特別養護老人ホーム(従業員45名)では、この「アットホームな環境」と「意見が通りやすい風通しの良さ」を前面に打ち出した採用戦略によって、採用業務時間を50%削減しながらも質の高い人材を確保することに成功しています。

このように、大手にはない中小ならではの魅力を明確にし、それを求人情報や採用活動の中で積極的にアピールすることが重要です。
あなたの施設にはどんな強みがありますか?スタッフに「なぜこの施設で働いているのか」を聞いてみると、意外な強みが見つかるかもしれません。
効果的な採用チャネルの選択と活用法
中小介護事業者が限られた予算で最大の効果を得るためには、採用チャネルの選択が重要です。それぞれのチャネルの特徴と活用法を見ていきましょう。
1. 介護専門求人サイトの戦略的活用
介護専門の求人サイトは、介護職を希望する求職者が集まる場所です。一般的な求人サイトよりも、より目的意識の高い応募者と出会える可能性が高まります。
求人原稿作成のポイントは、施設の特徴や強みを具体的に伝えること。勤務条件だけでなく、「どんな職場環境か」「どんなケア理念を大切にしているか」といった情報も盛り込みましょう。また、現場スタッフの声やエピソードを掲載することで、リアリティのある職場イメージを伝えることができます。
関東地方のデイサービス(従業員15名)では、介護専門求人サイトに施設の理念や現場スタッフのインタビューを盛り込んだ求人を掲載し、3ヶ月で5名の採用に成功した事例があります。
2. 人材紹介会社の選び方と付き合い方
人材紹介会社を活用する場合は、中小介護事業者の特性を理解している会社を選ぶことが重要です。大手向けのサービスを提供している会社では、中小事業者のニーズに合った候補者を紹介してもらえない可能性があります。
複数の紹介会社と付き合うよりも、1〜2社に絞って深い関係を築くことをおすすめします。自施設の特徴や求める人材像を詳しく伝え、理解してもらうことで、マッチ度の高い候補者を紹介してもらえる可能性が高まります。
3. 地域密着型の採用活動
中小介護事業者にとって、地域密着型の採用活動は非常に効果的です。地域の求職者は通勤時間が短く、定着率も高い傾向にあります。
- 地域の就職イベントやセミナーへの参加
- 地元の介護福祉士養成学校との連携
- 地域の回覧板やコミュニティ誌への求人掲載
- 地域住民向けの施設見学会やイベントの開催
九州地方のグループホーム(従業員8名)では、地域住民向けの認知症ケア勉強会を定期的に開催し、その参加者から2ヶ月で2名の採用に成功しています。地域との信頼関係を築くことが、採用成功につながった好例です。

4. SNSを活用した採用ブランディング
費用をかけずに施設の魅力を発信する方法として、SNSの活用も効果的です。InstagramやFacebookなどを通じて、日々の業務の様子や施設の雰囲気、スタッフの声などを発信することで、求職者に「この施設で働きたい」と思ってもらうきっかけになります。
ポイントは継続的な発信と、現場の「リアル」を伝えること。完璧に整えられた情報よりも、日々の小さな喜びや苦労、成長の様子などを伝えることで、共感を得やすくなります。
採用業務の効率化と外部リソースの活用
中小介護事業者では、採用業務に割ける時間や人員が限られています。そこで、採用業務の効率化や外部リソースの活用が重要になってきます。
1. 採用業務の標準化
採用業務を標準化することで、効率的な採用活動が可能になります。以下のような工夫が有効です。
- 応募者情報の管理シートの作成
- 面接質問リストの標準化
- 選考基準の明確化
- 採用フローのチェックリスト作成
これらのツールを整備することで、採用業務の質を保ちながら、効率化を図ることができます。
2. 採用代行サービスの活用
採用業務の負担を軽減するために、採用代行サービスの活用も選択肢の一つです。中小介護事業者向けの採用代行サービスでは、求人原稿の作成から応募者対応、面接調整まで一貫してサポートしてくれるサービスもあります。
「かいごのおたすけ採用隊」のような中小介護事業者専門の採用課題解決サービスでは、月額10万円(税別・契約期間3ヶ月〜)で採用業務を完全代行し、初期費用無料、成果報酬無料、求人掲載費込みの明確な料金体系を提供しています。
このようなサービスを活用することで、本来の業務に集中しながらも、効果的な採用活動を進めることが可能になります。

3. 採用業務の分担と役割分担
採用業務を一人に集中させるのではなく、チームで分担することも効率化につながります。例えば、以下のような役割分担が考えられます。
- 求人原稿の作成:現場リーダー(現場の魅力を伝えられる)
- 応募者対応・日程調整:事務スタッフ
- 一次面接:現場リーダー
- 最終面接:施設長
- 内定後のフォロー:配属先の先輩スタッフ
このように役割を分担することで、一人あたりの負担を減らしながらも、それぞれの強みを活かした採用活動が可能になります。
採用成功から定着促進へ
採用活動の成功は、優秀な人材を採用できたときではなく、その人材が定着し活躍し始めたときに初めて実現します。採用と定着は一連の流れとして捉え、入職後のフォローも含めた戦略を立てることが重要です。
1. 入職前後のギャップを埋める
採用時に描いていたイメージと実際の職場環境にギャップがあると、早期離職につながりやすくなります。このギャップを埋めるために、以下のような取り組みが効果的です。
- 入職前の職場見学や体験勤務の実施
- 求人情報での正確な職場情報の提供
- 入職後の定期的な面談と期待値の調整
「想像していた仕事と違った」という理由での離職を防ぐためには、採用段階から誠実なコミュニケーションを心がけることが大切です。
2. 効果的なオンボーディング
新入職員が早く職場に馴染み、戦力として活躍できるようにするためには、計画的なオンボーディング(導入研修)が重要です。
- 業務マニュアルの整備
- 段階的な業務習得計画の作成
- メンター制度の導入
- 定期的なフィードバック面談の実施
特に中小介護事業者では、「見て覚える」式の教育になりがちですが、体系的な教育プログラムを用意することで、新入職員の不安を軽減し、早期戦力化を図ることができます。

3. 定着促進のための職場環境づくり
採用した人材を長く活躍してもらうためには、働きやすい職場環境づくりが不可欠です。中小介護事業者だからこそできる取り組みとして、以下のような例が挙げられます。
- 個人の事情に合わせた柔軟なシフト調整
- スタッフの意見を取り入れた職場改善
- スキルアップ支援(資格取得支援など)
- 定期的な個別面談による悩み相談
- チームワークを高めるイベントの開催
中小事業者の強みである「柔軟性」と「アットホームな環境」を活かし、スタッフ一人ひとりに寄り添った職場づくりを進めることで、定着率の向上につながります。
介護の仕事は、人と人とのつながりが基本です。採用活動も同じく、人と人とのつながりを大切にした取り組みが、結果として採用成功につながるのではないでしょうか。
まとめ:中小介護事業者だからこそできる採用戦略
中小介護事業者が限られたリソースの中で効果的な採用活動を行うためのポイントをまとめました。
- 自施設の強み(アットホームな環境、意思決定の速さ、成長機会の多さなど)を明確にし、採用活動に活かす
- 採用ニーズと採用ペルソナを明確にし、戦略的な採用活動を行う
- 地域密着型の採用活動を積極的に展開する
- 採用業務の効率化や外部リソースの活用で、本業への影響を最小限に抑える
- 採用と定着を一連の流れとして捉え、入職後のフォローも含めた戦略を立てる
大手介護施設と同じ土俵で競争するのではなく、中小事業者ならではの強みを活かした採用戦略を立てることが成功への近道です。
人材不足が深刻化する介護業界において、採用活動は経営課題の一つとなっています。しかし、適切な戦略と工夫次第で、中小介護事業者でも効果的な採用活動は可能です。
本記事で紹介した方法を参考に、あなたの施設に合った採用戦略を立ててみてはいかがでしょうか。
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