中小介護事業者が直面する採用の壁
介護業界の人材不足は年々深刻化しています。特に中小規模の介護事業者は、大手法人と比べて知名度や待遇面で不利な状況に置かれがちです。
少子高齢化が進む日本では、介護職員の必要数は2025年には約243万人、2040年には約280万人にまで増加すると予測されています。2019年と比較すると約69万人も必要数が増加する見込みなのです。
「求人を出しても応募が来ない」「採用業務に時間を取られて本業に集中できない」「人材紹介会社の高額な紹介料が経営を圧迫している」
こんな悩みを抱える中小介護事業者は少なくありません。
しかし、規模が小さいからこそできる採用戦略があるんです。
この記事では、実際に採用に成功した中小介護事業者の事例から導き出した5つの戦略をご紹介します。大手にはない「小さな事業者だからこそ」の魅力を活かした人材確保の秘訣をお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
戦略1：若手職員を採用活動の主役に
「若手の感性を活かして採用活動に新しい風を吹き込む」
福祉介護施設を運営する社会福祉法人すこやか福祉会では、若手職員の発想を活かした「ケアワーカー魅力発信委員会」を発足させました。この委員会の最大の特徴は、YouTubeを活用した情報発信です。
1分間の動画はホームページ100ページ分の情報量に相当すると言われており、求職者に一度に多くの情報を伝えることができます。実際の介護現場での取り組み事例や各施設の紹介ムービーなど、学生や求職者に介護の魅力を伝える内容の動画を公開したところ、面接に来た応募者から「YouTubeを見ました」という声が多く聞かれるようになりました。
若手職員ならではの視点で作られた動画は、同世代の求職者の心に響きやすく、採用活動の大きな武器になっています。さらに、制作した動画は新人研修にも活用されており、教育面でもメリットが生まれています。
どうですか？あなたの施設にも、SNSやデジタルツールを使いこなせる若手職員はいませんか？
若手主導の採用活動成功ポイント
- 若手職員に採用活動の企画・運営の主導権を与える
- SNSやYouTubeなどデジタルツールを積極活用する
- 同世代目線での情報発信で共感を生む
- 制作したコンテンツを採用だけでなく研修にも活用する
- 経営層は若手の自由な発想を尊重し、必要なサポートに徹する
若手職員が主体的に関わることで、採用活動に新しい視点が加わり、同世代の求職者の心に響くメッセージを発信できるようになります。また、若手職員自身のモチベーション向上にもつながる一石二鳥の戦略です。
戦略2：職員ファーストの理念を前面に
「職員を大切にする姿勢が、結果的に採用の強みになる」
岐阜県美濃加茂市のNPO法人ライフテラスは、「職員を大切にする」という理念を徹底しています。
「ライフテラスの最大の強みは、職員を大切にしていることです。そこに全てを傾注していると言っても過言ではありません」と金武真司理事長は言います。
職員数には余裕を持たせ、常勤職員の比率も高くしています。利用者3人に対して職員1人という手厚い体制を取り、職員の負担を減らす工夫をしています。朝の3時間だけ働くなど、短時間労働のニーズにも柔軟に対応する勤務体系も採用。「いかに職員に気持ちよく働いてもらえるか」を最優先に考えた職場環境づくりが、結果的に採用面でも大きな強みとなっています。
この「職員ファースト」の姿勢が口コミで広がり、「働きやすい職場」として地域での評判を獲得。応募者が自然と集まるようになりました。
あなたの施設でも、職員を大切にする姿勢を求人情報や面接で積極的にアピールしてみませんか？
職員ファーストの理念を実践するポイント
- 適正な人員配置で一人あたりの負担を軽減
- 多様な働き方に対応する柔軟な勤務体系
- 職員の声を積極的に聞き、改善に活かす仕組み
- 経営者自らが現場に立ち、職員の苦労を理解する
- 職員の成長をサポートする研修制度や資格取得支援
職員を大切にする姿勢は、単なるスローガンではなく、具体的な制度や取り組みとして表れることが重要です。そして、それを求人情報や面接の場で具体的に伝えることで、「ここで働きたい」と思ってもらえる事業所になります。
戦略3：ICT活用で業務負担を軽減
「最新技術の導入で職員の負担を減らし、働きやすさをアピール」
介護現場の大きな課題の一つが「業務負担の重さ」です。特に記録業務や夜間の見守りは、職員の大きな負担となっています。
ライフテラスでは、ICTを活用した業務効率化にも積極的に取り組んでいます。開設当初からナースコールと介護請求業務システムを導入し、さらに利用者のベッドにセンサーマットを設置する見守りシステムも採用しました。
この見守りシステムの導入により、夜間の巡回業務が大幅に効率化され、職員の負担が軽減されました。「ICTの活用で職員に余裕が生まれ、ホスピタリティの充実につながった」と施設長は語ります。
採用面でも「最新技術を活用した働きやすい職場環境」をアピールポイントとして打ち出すことで、若い世代からの応募が増加しました。中小施設だからこそ、新しい取り組みを迅速に導入できるという強みを活かした好例です。
ICT活用で実現できること
- 記録業務のデジタル化による事務作業の効率化
- センサー技術を活用した夜間見守りの負担軽減
- シフト管理システムによる勤務調整の効率化
- オンライン研修システムによる学習機会の拡充
- コミュニケーションツールによる情報共有の円滑化
ICTの導入は初期投資が必要ですが、長期的に見れば業務効率化によるコスト削減と職員の負担軽減という大きなメリットがあります。また、「先進的な職場」というイメージは若い世代の求職者にとって魅力的なアピールポイントになります。
戦略4：地域特性を活かした採用戦略
「大手にはない地域密着型の魅力を最大限にアピール」
京都府北部に位置するみねやま福祉会は、立地的なハンデを抱えながらも、地域密着型の採用戦略で成功を収めています。
若手職員による採用強化チーム「SKIPPA」を結成し、ホームページやパンフレット、SNSのコンテンツを刷新。地域の特性や魅力を前面に打ち出した採用活動を展開しました。その結果、わずか2年間で合同説明会での集客数が62倍に増加するという驚異的な成果を上げています。
「地方だからこそできる暮らし方」「地域に根ざした介護の魅力」を積極的にアピールすることで、都市部の大規模施設とは異なる独自の魅力を打ち出すことに成功したのです。
あなたの施設がある地域ならではの魅力は何でしょうか？それを採用活動にどう活かせるか、考えてみてください。
地域特性を活かした採用戦略のポイント
- 地域の自然環境や生活環境の魅力をアピール
- 地域住民との交流や地域行事への参加をPR
- 地元出身者のUターン採用に注力
- 地域の学校や自治体との連携強化
- 地域特有の文化や伝統を取り入れたケアの実践
中小介護事業者だからこそ、地域との結びつきを深め、その魅力を採用活動に活かすことができます。地域に根ざした事業運営は、採用面だけでなく、利用者サービスの質の向上にもつながる重要な戦略です。
戦略5：採用業務の専門家に任せる
「本業に集中するために、採用のプロに任せる選択肢」
採用活動は専門性の高い業務です。特に中小介護事業者では、採用担当者が他の業務と兼務していることが多く、十分な時間や知識を持って取り組むことが難しい場合があります。
そんな中、採用業務を専門家に任せることで成功した事例も増えています。関東地方のデイサービス（従業員15名）では、採用代行サービスを利用して3ヶ月で5名の採用に成功。関西地方の特別養護老人ホーム（従業員45名）では、採用業務の時間を50%削減することができました。
採用代行サービスを利用するメリットは、専門的なノウハウを活用できることはもちろん、経営者や現場責任者が本来の業務に集中できることにもあります。「採用のことは専門家に任せて、私たちは利用者様へのサービス向上に専念できるようになりました」と導入施設の管理者は語ります。
採用代行サービス選びのポイント
- 介護業界に特化した専門性を持っているか
- 中小事業者の特性を理解しているか
- 料金体系が明確で、追加費用がかからないか
- 実績や導入事例が豊富にあるか
- 担当者との相性や連絡体制は整っているか
採用代行サービスを選ぶ際は、単に「採用業務を任せる」だけでなく、自社の特性や魅力を理解し、それを最大限に活かしてくれるパートナーを選ぶことが重要です。中小介護事業者の特性を理解した上で、大手にはない魅力を引き出してくれるサービスを選びましょう。
中小介護事業者だからこそできる採用戦略
ここまで5つの採用成功戦略をご紹介してきましたが、これらに共通するのは「中小だからこそできること」を最大限に活かすという点です。
大手介護事業者と同じ土俵で戦っても勝ち目は少ないでしょう。しかし、中小介護事業者には大手にはない強みがあります。
- 意思決定の速さと柔軟性
- アットホームな職場環境
- 一人ひとりの職員を大切にできる距離感
- 地域との密接なつながり
- 個性的な取り組みの実現しやすさ
これらの強みを活かした採用戦略を展開することで、大手には真似できない魅力を打ち出し、採用市場で存在感を示すことができるのです。
介護業界の人材不足は今後も続くでしょう。しかし、工夫次第で中小介護事業者でも採用に成功することは十分に可能です。今回ご紹介した5つの戦略を参考に、あなたの施設に合った採用戦略を見つけてください。
採用に悩む中小介護事業者の皆様に、少しでもお役に立てれば幸いです。
まとめ：中小介護事業者の採用成功の鍵
- 若手職員を採用活動の主役に据え、新しい発想を取り入れる
- 職員ファーストの理念を徹底し、働きやすい職場環境を整える
- ICTを活用して業務負担を軽減し、働きやすさをアピールする
- 地域特性を活かした独自の採用戦略を展開する
- 採用業務の専門家に任せ、本業に集中する選択肢も検討する
介護人材の確保は一朝一夕にできるものではありません。長期的な視点で取り組むことが大切です。しかし、今回ご紹介した戦略を一つずつ実践していくことで、確実に採用状況は改善していくでしょう。
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