
歯科医院が抱える人材採用と定着の課題
歯科医院の経営において、優秀なスタッフの確保は最大の悩みとなっています。特に歯科衛生士の有効求人倍率は20倍を超え、採用できたとしてもすぐに辞めてしまうケースが後を絶ちません。
「良い人材が見つからない」
こんな声を上げる院長先生は少なくありません。歯科医院の数が飽和状態に近づいている地域も多く、若い歯科医師や歯科衛生士、歯科助手などの確保が年々難しくなっています。
私が10年以上にわたり歯科医院の経営コンサルティングを行ってきた経験から言えることは、採用の成否は「求人条件」だけでなく「職場の魅力」にかかっているということです。

特に近年では、単に給与が高いだけでは人材は定着しません。スタッフが「この医院で長く働きたい」と思える環境づくりが必要です。その鍵となるのが「評価と承認」の仕組み。つまり「表彰制度」なのです。
実際に、スタッフ定着率を30%以上改善した医院では、ほぼ例外なく何らかの表彰制度を導入しています。
表彰制度が歯科医院の採用力を高める理由
なぜ表彰制度が採用力向上につながるのか。その理由は人間心理に深く根ざしています。
私たちは誰しも、自分の頑張りや成果を認められたいという欲求を持っています。特に医療現場で日々患者さんのために尽力する歯科スタッフにとって、その思いは強いものです。
表彰制度には次のような効果があります。
- スタッフのモチベーション向上と定着率アップ
- チーム全体の士気向上と組織文化の醸成
- 採用市場での医院の評判・ブランド向上
- 患者満足度の向上と経営改善
特に注目すべきは、表彰制度が「既存スタッフの定着」だけでなく「新規採用」にも大きく影響する点です。
歯科衛生士や歯科助手の求職者は、給与や勤務条件だけでなく「働きやすさ」や「成長できる環境か」を重視します。表彰制度がある医院は「スタッフを大切にしている」「頑張りが評価される」という強いメッセージを発信できるのです。

ある院長は私にこう語りました。
「表彰制度を導入してから、スタッフの笑顔が増えました。そして不思議なことに、求人を出すと『この医院で働きたい』という応募が増えたんです。既存スタッフが自分の職場を誇りに思い、SNSなどで発信してくれるようになったからかもしれません」
歯科医院に最適な表彰制度の種類と設計ポイント
表彰制度と一口に言っても、その種類は多岐にわたります。歯科医院の規模や方針に合わせて、最適な制度を選ぶことが大切です。
以下に、歯科医院に特に効果的な表彰制度の種類をご紹介します。
1. 月間・四半期・年間MVPなどの定期表彰
最もポピュラーな表彰制度です。月間や四半期ごとに優秀なスタッフを表彰します。歯科医院では「患者さんからの評価が高かったスタッフ」「チーム貢献度の高かったスタッフ」などの視点で選出するケースが多いです。
定期表彰のポイントは「選考基準の透明性」と「全員にチャンスがあること」。特定のスタッフばかりが選ばれる状況は避けましょう。
2. スキル・資格取得に対する表彰
歯科衛生士や歯科助手のスキルアップや資格取得を称える表彰制度です。セミナー参加や社内研修の修了、専門的な技術の習得などを評価します。
この表彰は「成長意欲の高いスタッフ」の採用・定着に特に効果的です。
3. 患者さんからの感謝・評価に基づく表彰
患者さんからの感謝の声やアンケート評価に基づく表彰です。「笑顔が素敵な歯科衛生士さん」「丁寧な説明が印象的な受付さん」など、患者さん目線での評価を重視します。
この表彰は患者満足度向上にも直結するため、一石二鳥の効果があります。

4. チーム・部門単位の表彰
個人だけでなく、チームや部門単位での表彰も効果的です。「最も予約キャンセル率が低かったチーム」「患者満足度が向上した部門」など、協力して成果を上げた集団を評価します。
チームワークを重視する歯科医院では、この表彰が組織文化の醸成に役立ちます。
5. ピア・トゥ・ピア(相互評価)表彰
スタッフ同士が互いを評価し合う表彰制度です。「今月最も助けてくれた同僚」「チームに前向きな影響を与えた人」などを投票で決定します。
現場の実態をよく知るスタッフ同士の評価は説得力があり、公平感も高まります。
効果的な表彰制度の導入ステップ
表彰制度を導入するには、計画的なステップを踏むことが重要です。以下に、成功事例から導き出した7つのステップをご紹介します。
ステップ1:目的と期待効果の明確化
まずは表彰制度を導入する目的を明確にしましょう。「スタッフのモチベーション向上」「チームワークの強化」「患者満足度の向上」など、具体的なゴールを設定します。
目的が明確になれば、それに合った表彰制度のタイプや評価基準が見えてきます。
ステップ2:スタッフの意見収集と参加促進
表彰制度の設計段階からスタッフを巻き込むことが成功の鍵です。「どんな評価項目が公平だと思うか」「どんな表彰が嬉しいか」などの意見を聞きましょう。
スタッフが参加して作った制度は、納得感と参加意欲が高まります。
ステップ3:評価基準と選考プロセスの設計
公平で透明性の高い評価基準と選考プロセスを設計します。主観的な「好き嫌い」ではなく、客観的な基準(患者アンケート結果、技術習得度、チーム貢献など)を重視しましょう。
選考方法も「院長一人で決める」より「複数の視点で評価する」方が公平感が高まります。

ステップ4:表彰の形式と報酬の決定
表彰の形式(表彰状、トロフィー、院内掲示など)と、それに伴う報酬(賞金、商品券、特別休暇など)を決定します。
金銭的報酬も効果的ですが、「院長との食事会」「希望のセミナー参加費用負担」など、体験型・成長型の報酬も検討しましょう。
ステップ5:表彰制度のアナウンスと説明会
制度の開始前に、全スタッフに向けて丁寧な説明会を実施します。目的、評価基準、選考プロセス、表彰内容などを明確に伝え、質問に答える機会を設けましょう。
「なぜこの制度を導入するのか」という理念の共有が特に重要です。
ステップ6:定期的な実施と表彰セレモニー
計画通りに表彰を実施し、表彰セレモニーを大切にします。朝礼や定例ミーティングなど、スタッフが集まる場で表彰すると効果的です。
受賞者には具体的な評価ポイントを伝え、全員で称えましょう。
ステップ7:制度の効果測定と改善
定期的に制度の効果を測定し、必要に応じて改善します。「スタッフ満足度」「離職率」「採用応募数」などの指標で効果を確認しましょう。
スタッフからのフィードバックも積極的に集め、より良い制度へと進化させていきます。
歯科医院の表彰制度成功事例
実際に表彰制度を導入し、採用力と定着率を大幅に向上させた歯科医院の事例をご紹介します。
事例1:患者評価を活用した「スマイルアワード」
東京都内の「あゆみ歯科クリニック」では、患者さんからの評価を活用した「スマイルアワード」を導入しました。患者さんが記入するアンケートに「今日特に印象に残ったスタッフ」の項目を設け、月間で最も多く名前が挙がったスタッフを表彰します。
この制度導入後、スタッフの患者対応への意識が高まり、患者満足度が向上。SNSでの口コミも増え、新規患者の増加と共に、「この医院で働きたい」という応募も増加しました。歯科衛生士の定着率は導入前と比べて30%向上しています。

事例2:多角的評価による「デンタルスターアワード」
大阪府の「さくら矯正歯科」では、院長評価・患者評価・同僚評価の3つの視点を組み合わせた「デンタルスターアワード」を四半期ごとに実施しています。
評価項目は「技術力」「患者対応力」「チーム貢献度」「自己成長」の4カテゴリー。それぞれのカテゴリーで最も評価の高かったスタッフと、総合得点トップのスタッフを表彰します。
多角的な評価により、「技術は素晴らしいが患者対応に課題がある」「患者対応は素晴らしいが技術向上が必要」など、スタッフの強みと成長ポイントが明確になりました。
この制度により、スタッフ一人ひとりが自分の強みを活かしながら弱点を改善する文化が生まれ、チーム全体のレベルアップにつながっています。採用面接では「成長できる環境」として評判となり、質の高い応募者が増加しました。
事例3:成長支援型「スキルアップアワード」
福岡県の「みどり歯科技工所」では、スキルアップや資格取得を称える「スキルアップアワード」を導入しています。セミナー参加や新技術習得などの自己研鑽活動にポイントを付与し、半年ごとに集計して上位者を表彰します。
表彰者には賞金だけでなく、希望する専門研修への参加費用全額負担という特典も用意。この「成長投資型」の報酬が特に若手スタッフに好評で、「学びながら働ける環境」として求職者からの支持を集めています。
導入から2年で、歯科技工士の応募数は3倍に増加し、特に経験者からの応募が目立つようになりました。
表彰制度導入時の注意点と課題解決法
表彰制度は効果的な取り組みですが、導入時にはいくつかの課題が生じることもあります。ここでは主な課題と解決法をご紹介します。
課題1:「いつも同じ人が選ばれる」問題
表彰制度を続けていくと、「いつも同じスタッフが選ばれる」という状況が生じることがあります。これが続くと、他のスタッフのモチベーション低下につながりかねません。
解決法:複数のカテゴリーや評価軸を設け、様々な強みや貢献が評価される仕組みにしましょう。また、「最も成長した人」「最も改善した指標」など、変化や進歩に焦点を当てた評価項目も効果的です。

課題2:評価の公平性への疑問
「なぜあの人が選ばれたのか」「評価は公平なのか」という疑問が生じると、制度への信頼が損なわれます。
解決法:評価基準と選考プロセスの透明性を高めましょう。可能な限り数値化・可視化された指標を活用し、選考理由を具体的に説明することが重要です。また、スタッフ代表を選考委員に加えるなど、多様な視点での評価も効果的です。
課題3:形骸化・マンネリ化
導入当初は盛り上がっても、時間の経過とともに「ただの儀式」になってしまうことがあります。
解決法:定期的に制度をリフレッシュしましょう。評価項目の見直し、表彰方法や特典の変更、スタッフからの新しいアイデア募集などが効果的です。また、表彰セレモニー自体も工夫を凝らし、毎回の「特別感」を大切にしましょう。
課題4:「競争」による職場の分断
表彰制度が過度な競争意識を生み、チームワークを損なうケースもあります。
解決法:個人表彰だけでなく、チーム表彰も取り入れましょう。また、「協力」「サポート」「チーム貢献」を評価する項目を重視することで、協力的な文化を促進できます。
課題5:小規模医院での運用の難しさ
スタッフ数が少ない小規模医院では、表彰制度の運用が難しいと感じることもあります。
解決法:小規模医院では「月間MVP」よりも「特定の成果や行動に対するスポット表彰」が効果的です。また、個人間の比較ではなく、「目標達成」や「前月比改善」など、自分自身との比較に基づく評価も検討しましょう。
表彰制度と連動させたい採用戦略
表彰制度は単独でも効果的ですが、採用戦略と連動させることでさらに大きな効果を発揮します。以下に、表彰制度を採用力向上に活かす具体的な方法をご紹介します。
1. 表彰実績を求人情報や医院紹介に積極的に掲載
表彰制度の存在や実際の表彰の様子を、求人情報や医院ホームページに掲載しましょう。「スタッフを大切にする医院」「頑張りが評価される職場」というメッセージが、質の高い応募者を引き寄せます。
特に、表彰されたスタッフのインタビューや喜びの声を掲載すると、説得力が増します。
2. 採用面接での表彰制度の紹介
採用面接の中で、医院の表彰制度について具体的に説明しましょう。「どのような行動や成果が評価されるのか」「どのような表彰や特典があるのか」を伝えることで、応募者の入職意欲を高められます。
特に成長意欲の高い応募者は、自分の頑張りが正当に評価される環境に魅力を感じます。

3. SNSや医院ブログでの表彰の様子の発信
表彰セレモニーの様子や受賞者の喜びの声をSNSや医院ブログで発信しましょう。「アットホームな職場」「スタッフを大切にする医院」というイメージが拡散され、潜在的な応募者の関心を引きます。
特に、現在のスタッフがこうした投稿に「いいね」や「シェア」をすることで、その効果は倍増します。
4. 表彰制度と連動したリファラル採用の促進
「優秀な人材を紹介したスタッフ」を表彰する制度を設けると、リファラル採用(社員紹介による採用)が活性化します。スタッフは自分の評価にもつながる優秀な人材を紹介するようになり、採用の質が向上します。
実際に、リファラル採用は他の採用方法と比べて定着率が高いというデータもあります。
5. 採用代行サービスとの連携
表彰制度を含む「働きやすい職場環境」を、採用代行サービスに詳しく伝えることも効果的です。専門のコンサルタントが医院の魅力を適切に求職者に伝えてくれるため、マッチング精度が向上します。
例えば「歯科医院おたすけ採用隊」のようなAIと専門コンサルタントを組み合わせた採用代行サービスでは、医院の特徴や職場環境を詳細に分析し、最適な人材とのマッチングを実現しています。
まとめ:表彰制度で歯科医院の採用力と組織力を高める
歯科医院の採用難が続く中、表彰制度の導入は採用力と組織力を同時に高める効果的な取り組みです。
表彰制度の本質は「評価と承認」。スタッフの頑張りや成果を正当に評価し、公に認めることで、モチベーションと帰属意識が高まります。その結果、職場の雰囲気が良くなり、スタッフの定着率が向上すると同時に、「この医院で働きたい」という応募も増えていくのです。
表彰制度を導入する際は、以下のポイントを意識しましょう。
- 医院の理念や目標と連動した評価基準を設ける
- 公平性と透明性を確保する
- 多様な視点からの評価を取り入れる
- 表彰の場を大切にし、全員で称える文化を作る
- 定期的に制度を見直し、進化させる
そして何より大切なのは、表彰制度を「単なるイベント」ではなく「医院の文化」として根付かせることです。院長自らが「スタッフの成長と貢献を喜ぶ」姿勢を示し、日常的な「感謝」と「承認」の言葉を大切にしましょう。
歯科医療の現場で日々奮闘するスタッフたちが、「この医院で働いていて良かった」と心から思える環境づくりが、最高の採用戦略となるのです。
歯科医院の採用でお悩みなら、表彰制度の導入と合わせて、専門的な採用サポートの活用も検討してみてはいかがでしょうか。
歯科医院おたすけ採用隊では、AIによる高精度マッチングと歯科業界に特化した専門コンサルタントが、貴院に最適な人材採用をサポートします。表彰制度の設計・導入についてのアドバイスも含め、採用から定着までワンストップでサポートしていますので、ぜひお気軽にご相談ください。