
介護施設が直面する採用課題の現状
介護業界の人手不足は年々深刻化している。2025年には約55万人、2035年には約69万人もの介護人材が不足すると予測されている状況だ。
「求人を出しても応募が来ない」「採用業務に時間を取られて本来の業務に集中できない」「人材紹介会社の高額な紹介料が経営を圧迫している」
こんな悩みを抱える介護施設経営者や採用担当者は少なくないだろう。特に中小規模の介護施設では、大手法人と比べて知名度や待遇面で見劣りすることが多く、人材確保に苦戦している現実がある。

厚生労働省の最新データによると、介護関係職種の有効求人倍率は3.71倍と、全職業平均の1.16倍を大きく上回る状況が続いている。つまり、求職者1人に対して約4件の求人があるという厳しい採用環境なのだ。
採用を差別化する7つの重要ポイント
では、このような厳しい採用環境の中で、どうすれば他の施設と差別化して優秀な人材を確保できるのだろうか?
ここからは、介護施設の採用を成功させるための7つの重要ポイントを詳しく解説していく。これらのポイントは、実際に採用成功率を高めている施設の事例から抽出した実践的なものばかりだ。
1. 施設の独自性を明確に打ち出す
多くの求人票は似たような内容になりがちだ。「アットホームな職場です」「充実した研修制度があります」といった抽象的な表現では、求職者の心に響かない。
大切なのは、あなたの施設ならではの独自性を具体的に伝えること。
例えば、「毎月のケアカンファレンスでは、スタッフ全員が対等に意見を出し合い、利用者様一人ひとりに最適なケアプランを作成しています」「年2回の職員旅行は10年以上続く伝統で、チームの結束力を高める大切な機会となっています」など、具体的なエピソードを交えて伝えると効果的だ。

私が以前コンサルティングした関東地方のデイサービスでは、「地域の伝統工芸を取り入れたレクリエーション」という独自のアプローチを求人票に明記したところ、応募数が前月比で3倍に増加した。
あなたの施設にしかない強みは何だろうか?それを明確に言語化し、求人情報の目立つ位置に配置してみよう。
2. 求人票の業務内容を詳細に分解する
「介護業務全般」という曖昧な表現では、応募者は具体的な業務イメージを持てない。特に未経験者は「自分にできるだろうか」という不安から応募をためらうことが多い。
業務内容を詳しく分解して伝えることで、応募者の不安を解消し、「これなら私もできそう」と思ってもらうことが大切だ。
例えば、有料老人ホームの求人なら「入浴介助(一般浴・機械浴)」「食事介助(嚥下障害対応含む)」「排泄介助」「レクリエーション企画・実施」「介護記録入力」など、具体的な業務に分けて説明しよう。
さらに一日のタイムスケジュールを示すと、より働くイメージが湧きやすくなる。
3. 入職後のキャリアパスを明示する
優秀な人材ほど、将来のキャリアについて考えている。入職後どのようなスキルが身につき、どんなキャリアを歩めるのかを具体的に示すことで、長期的な視点を持った人材を惹きつけることができる。
「入職1年目:基本的な介護技術の習得と社内研修の受講」「2年目:リーダー研修の受講とフロアリーダー補佐」「3年目:フロアリーダーへの昇格とマネジメントスキルの習得」といった形で、年数ごとの成長ステップを明示しよう。
資格取得支援制度がある場合は、その具体的な内容(費用補助の金額、勤務シフトの配慮など)も詳しく記載すると効果的だ。

九州地方のグループホームでは、キャリアパスを明確に示した求人に変更したところ、2ヶ月で2名の採用に成功した実績がある。特に20代〜30代の応募者からは「将来が見えて安心した」という声が多く聞かれたという。
あなたの施設では、スタッフがどのように成長していけるのか?その道筋を明確に示してみよう。
4. 採用媒体を戦略的に選定する
「求人を出しても応募が来ない」と嘆く前に、適切な採用媒体を選んでいるか見直してみよう。介護職の採用に効果的な媒体は、求める人材層によって大きく異なる。
経験者を採用したい場合は、Indeed、リクナビNEXT、介護専門の求人サイトなどが効果的だ。特にIndeedはキーワード検索が重視される求人サイトなので、対象となる資格・経験・該当学歴を正式名称で記載するのがポイントとなる。
一方、未経験者を広く募集したい場合は、地域密着型のタウンワークなどが効果的。主婦層や第二新卒をターゲットにするなら、スマホアプリの求人サービスも検討価値がある。
さらに、複数の媒体に同時に求人を出すことで、より多くの層にリーチできる。ただし、媒体ごとに少しずつ求人内容を変え、どの媒体からの応募が多いかを分析することも重要だ。
5. 採用プロセスを応募者目線で最適化する
優秀な人材ほど選択肢が多い。応募から内定までのプロセスがスムーズでなければ、途中で他の施設に流れてしまう可能性が高い。
応募者目線で採用プロセスを最適化することが、採用成功率を高める重要なポイントだ。
まず、応募から24時間以内の初回連絡を徹底しよう。「応募ありがとうございます。〇日以内に詳細をご連絡します」という自動返信だけでも、応募者の安心感は大きく変わる。
面接日程は複数の候補を用意し、応募者の都合に合わせる柔軟性を持とう。オンライン面接の選択肢を用意することも、応募者にとって大きなメリットになる。

関西地方の特別養護老人ホームでは、応募者とのやり取りをすべて記録する応募者管理システムを導入し、採用業務時間を50%削減した事例がある。システム導入により、「どの応募者にどこまで連絡したか」が一目で分かるようになり、フォローの漏れがなくなったという。
あなたは応募者からの連絡にどれくらいのスピードで対応できているだろうか?
6. 職場の雰囲気を視覚的に伝える
「百聞は一見に如かず」という言葉通り、文字だけでは伝わらない職場の雰囲気を視覚的に伝えることが重要だ。
施設内の写真、スタッフの笑顔、レクリエーションの様子など、リアルな職場の様子を写真や動画で伝えることで、応募者の不安を解消し、入職後のミスマッチを防ぐことができる。
特に効果的なのは、実際のスタッフによる「一日の業務紹介」や「入職の決め手」などのインタビュー動画だ。同年代・同性別のスタッフの声は、応募者にとって強い説得力を持つ。
ただし、利用者のプライバシーには十分配慮し、写真や動画の使用には必ず本人(または家族)の同意を得ることを忘れないようにしよう。
7. 採用代行サービスの戦略的活用
採用業務に十分なリソースを割けない中小介護施設では、採用代行サービスの活用も効果的な選択肢となる。
「かいごのおたすけ採用隊」のような中小介護事業者専門の採用代行サービスでは、月額10万円程度で採用業務を完全代行してくれるサービスもある。初期費用無料、成果報酬無料、求人掲載費込みの明確な料金体系で、採用コストの予測が立てやすいのが特徴だ。
採用代行サービスの主なメリットは、①採用のプロによる効果的な求人設計、②積極的なスカウト活動、③業界ネットワークの活用、④採用業務の時間削減などが挙げられる。

中小規模の介護施設にとって、採用業務に専念できる人材を確保することは難しい。本業である介護サービスの質を維持しながら効率的に採用活動を行うには、専門家の力を借りることも検討する価値があるだろう。
あなたは採用業務にどれくらいの時間とコストをかけているだろうか?その投資対効果は十分だろうか?
差別化された採用活動の実践事例
ここからは、実際に採用活動を差別化して成功した介護施設の事例を紹介しよう。これらの事例から、自施設に応用できるヒントを見つけてほしい。
事例1:地域密着型デイサービスの採用成功事例
関東地方のあるデイサービス(従業員15名規模)では、「地域の高齢者の生きがいを創出する」という理念を前面に打ち出した求人戦略を展開。地域の伝統工芸や文化を取り入れたユニークなレクリエーションプログラムの写真や動画を求人情報に掲載した。
さらに、未経験者向けに「介護の仕事の魅力発見セミナー」を毎月開催。セミナー参加者に施設見学と体験勤務の機会を提供することで、「介護は大変そう」というイメージを払拭することに成功した。
その結果、3ヶ月で5名の採用に成功。特に地域貢献に興味を持つ主婦層からの応募が増加したという。
この事例から学べるのは、単に「人手が欲しい」という施設側の都合ではなく、「どんな価値観を持った人材と一緒に働きたいか」を明確にすることの重要性だ。
事例2:特別養護老人ホームの採用業務効率化事例
関西地方の特別養護老人ホーム(従業員45名規模)では、採用業務の効率化に取り組んだ。まず、応募者管理システムを導入し、応募者とのやり取りをすべてデータベース化。担当者が不在でも他のスタッフが対応できる体制を構築した。
また、面接の一次選考をオンラインで実施することで、応募者の負担軽減と選考スピードの向上を実現。さらに、入職後3ヶ月間のフォロー体制を整え、早期離職の防止にも成功した。
これらの取り組みにより、採用業務時間を50%削減しながら、質の高い人材の確保に成功している。
この事例から学べるのは、採用活動は「人を雇う」ところで終わりではなく、入職後のフォローまで含めた一連のプロセスとして捉えることの重要性だ。
事例3:グループホームの差別化戦略事例
九州地方のグループホーム(従業員8名規模)では、小規模施設ならではの「アットホームな環境」を差別化ポイントとして明確に打ち出した。
具体的には、「少人数だからこそできるきめ細かなケア」「スタッフ全員が意思決定に参加できる風通しの良さ」「利用者様一人ひとりとじっくり向き合える環境」などを求人情報で強調。
さらに特徴的だったのは、「理想の介護」についての施設長の想いをブログやSNSで定期的に発信していたことだ。この情報発信が共感を呼び、2ヶ月で2名の採用に成功した。
ただ人を増やすのではなく、「同じ価値観を持った仲間を見つける」という姿勢が、小規模施設ならではの採用成功につながった好例だ。
採用差別化のための実践ステップ
ここまで紹介した7つのポイントと実践事例を踏まえ、明日から始められる具体的なステップを整理しよう。
ステップ1:自施設の強みを再発見する
まずは、自施設の強みを客観的に洗い出すことから始めよう。現在のスタッフに「この施設で働く魅力は何か」をアンケートしてみるのも良い方法だ。
大手にはない中小施設ならではの魅力(意思決定の速さ、アットホームな雰囲気、地域との密接なつながりなど)を具体的なエピソードとともに言語化しよう。
この作業は一人で行うより、現場スタッフを交えたワークショップ形式で行うと、より多角的な視点から施設の魅力を発見できるだろう。
ステップ2:ターゲット人材像を明確にする
「誰でもいいから人手が欲しい」という姿勢では、質の高い採用はできない。どんな価値観や志向性を持った人材と一緒に働きたいのかを明確にしよう。
例えば「地域貢献に興味がある人」「チームワークを大切にする人」「新しいことに挑戦したい人」など、具体的な人物像を描くことが大切だ。
ターゲット人材像が明確になれば、その層に響く言葉や訴求ポイントも自ずと見えてくる。
ステップ3:求人情報を全面的に見直す
現在の求人情報は、応募者目線で魅力的に映っているだろうか?他の施設との差別化ポイントは明確に伝わっているだろうか?
前述の7つのポイントを参考に、求人情報を一から見直してみよう。特に以下の点に注目したい:
- タイトルは目を引くものになっているか
- 施設の独自性が具体的に伝わっているか
- 業務内容が詳細に分解されているか
- キャリアパスが明示されているか
- 職場の雰囲気が視覚的に伝わっているか
- 応募者にとっての魅力(給与・休日・研修制度など)が明確か
求人情報の見直しは、定期的に行うことが重要だ。応募状況や面接での質問内容などを分析し、常に改善を続けよう。
ステップ4:採用プロセスを効率化する
応募者とのファーストコンタクトから内定、入職までのプロセスを図式化し、無駄や改善点がないか検討しよう。
特に以下の点に注目したい:
- 応募者への初回連絡は24時間以内にできているか
- 面接日程は応募者の都合に合わせて柔軟に設定できているか
- 選考結果の連絡は迅速に行われているか
- 内定から入職までのフォローは十分か
- 入職後の研修体制は整っているか
採用プロセスの各ステップで応募者が離脱する原因を分析し、継続的に改善していくことが重要だ。
まとめ:差別化された採用で人材確保の好循環を作る
介護業界の人材不足は今後も続くと予想される中、採用活動の差別化は施設の存続に関わる重要な課題だ。
本記事で紹介した7つのポイントを実践することで、単なる「人手の確保」ではなく、「共に理念を実現する仲間探し」という視点で採用活動を展開できるようになるだろう。
特に中小規模の介護施設では、大手にはない独自の魅力を明確に打ち出し、「規模は小さくても、働く価値のある素晴らしい職場」であることを伝えることが重要だ。
質の高い人材の確保は、サービスの質の向上につながり、職場の活性化、さらなる人材の応募という好循環を生み出す。
採用に悩む介護施設経営者の皆さん、まずは今日から自施設の強みの再発見と、求人情報の見直しから始めてみてはいかがだろうか。
また、採用業務に十分なリソースを割けない場合は、「かいごのおたすけ採用隊」のような中小介護事業者専門の採用代行サービスの活用も検討する価値があるだろう。月額定額制で採用業務を完全代行してくれるサービスは、本業に集中しながら効率的に人材確保を進めるための強力な味方となる。
人材確保の課題を乗り越え、利用者様に質の高いケアを提供し続けられる施設づくりに、この記事がお役に立てば幸いだ。