
介護人材の定着が困難な現状と課題
介護業界の人材不足は年々深刻さを増しています。介護施設の運営者なら、せっかく採用した職員がすぐに辞めてしまう状況に頭を抱えているのではないでしょうか。
最新の厚生労働省の調査によると、介護施設の離職率は15.3%と全産業平均の15.0%をわずかに上回る水準です。一見それほど高くないように思えますが、今後の高齢者人口増加に伴い、介護職員の需要はさらに高まると予測されています。
人手不足に悩む介護施設は全体の57.7%にも上り、特に訪問系サービスでは53.7%が「常に人材が不足している」と回答しています。この状況を放置すれば、サービスの質低下はもちろん、残った職員への負担増加、さらなる離職という負のスパイラルに陥るリスクがあります。

では、なぜ介護人材の定着が難しいのでしょうか?主な要因としては、「処遇の低さ」「業務の身体的・精神的負担」「キャリアパスの不明確さ」「職場環境の問題」などが挙げられます。
しかし、同じ条件下でも人材定着に成功している施設があるのも事実です。その違いは何なのでしょうか?
人材定着に成功している介護施設の共通点
介護人材の定着に成功している施設には、いくつかの共通点があります。これらの施設では単に給与を上げるだけでなく、職員一人ひとりの成長や働きがいを大切にする組織文化を築いているのです。
例えば、岐阜県内の社会福祉法人新生会では、小グループでの自由な話し合いの場を設け、職員を認め、気にかけ、悩みの解消に取り組んでいます。また、社会福祉法人白寿会では、週休3日制の導入やICT化・ロボット等の積極的な活用により、働きやすい環境を整備しています。
これらの施設に共通するのは、「職員を大切にする」という基本姿勢です。職員が心身ともに健康で、仕事にやりがいを感じられる環境を整えることが、結果として利用者へのサービス向上にもつながっているのです。

人材定着に成功している施設では、「処遇改善」「職場環境の整備」「キャリア支援」「コミュニケーション強化」「ワークライフバランスの確保」などの取り組みを総合的に実施しています。
あなたの施設ではどうでしょうか?職員が長く働きたいと思える環境になっていますか?
介護人材の長期定着を実現する8つの秘訣
ここからは、介護施設における人材の長期定着を実現するための8つの秘訣をご紹介します。これらは全国の介護施設での成功事例をもとにまとめたものです。ぜひ、あなたの施設の状況に合わせて取り入れてみてください。
1. 処遇改善と公平な評価制度の構築
介護職員の処遇改善は、人材定着の基本です。厚生労働省の調査によれば、2009~2019年度にかけて介護職員の月額平均給与は7万5,000円増加しました。さらに2024年6月からは、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップを実現するための処遇改善加算の一本化と加算率引き上げが定められています。
しかし、単に給与を上げるだけでは不十分です。重要なのは、職員の頑張りや成長を適切に評価し、処遇に反映させる仕組みづくりです。
社会福祉法人あしなみでは、明確なキャリアパスと連動した人事考課制度を導入し、職員の成長と評価を可視化しています。これにより、職員は自分の将来像を描きやすくなり、長期的なキャリア形成への意欲が高まっています。
2. 働きやすい職場環境の整備
介護業務の身体的・精神的負担を軽減するための環境整備も重要です。具体的には、介護ロボットやICT機器の導入による業務効率化、記録システムの導入による間接業務の削減などが効果的です。
社会福祉法人白寿会では、ICT化やロボット導入を積極的に進め、職員の負担軽減に成功しています。また、社会福祉法人なごみ福祉会では、記録システムの導入や間接業務の分担により、職員が利用者との関わりに集中できる環境を整えています。

働きやすい環境づくりには、休憩スペースの確保や休暇取得の促進なども含まれます。職員が心身ともにリフレッシュできる環境があることで、長期的なモチベーション維持につながります。
あなたの施設では、職員の負担軽減のためにどのような工夫をしていますか?小さな改善の積み重ねが、大きな変化をもたらすことがあります。
3. 多様な働き方の実現
職員のライフステージに合わせた多様な働き方を認めることも、人材定着の鍵です。週休3日制、短時間勤務、時差出勤、テレワーク(可能な業務に限る)など、柔軟な勤務形態を導入している施設では、離職率の低下が見られます。
社会福祉法人永春会では、変則勤務や週休3日制の導入を検討し、職員の多様なニーズに応える取り組みを進めています。また、副業を解禁するなど、働き方の自由度を高める施策も実施しています。
特に子育て中の職員や介護と仕事の両立が必要な職員にとって、働き方の柔軟性は重要な要素です。「この施設なら長く働き続けられる」と思ってもらえる環境づくりが、人材定着につながります。
4. キャリア開発と成長機会の提供
介護職員の多くは、より質の高いケアを提供するための知識や技術を習得したいという意欲を持っています。この成長意欲に応える研修体制や資格取得支援は、職員の定着率向上に大きく貢献します。
社会福祉法人江東園では、同期の繋がりを大切にした研修体系を構築し、職員同士が学び合い、成長し合える環境を整えています。また、社会福祉法人あしなみでは、資格取得を後押しする職場風土を醸成し、職員のスキルアップを支援しています。
研修は単なる知識伝達の場ではなく、職員同士のつながりを深め、組織への帰属意識を高める機会でもあります。効果的な研修プログラムの設計と実施は、人材定着の重要な要素となります。
5. 組織内コミュニケーションの活性化
職場での人間関係の良し悪しは、離職の大きな要因となります。特に介護現場では、チームワークが重要であり、風通しの良い組織文化の構築が不可欠です。
社会福祉法人同朋会では、些細な出来事でも素早く気づいて対処し、職員が一人で問題を抱え込まないよう配慮しています。定期的な面談やグループディスカッションの機会を設け、職員の声に耳を傾ける姿勢が、信頼関係構築につながっています。

管理者が受容的な態度で職員に接し、良いところを見つけて褒める文化を作ることも効果的です。社会福祉法人万灯会では、管理者の受容的態度が職員の安心感につながり、離職者ゼロという驚異的な成果を上げています。
あなたは最近、部下や同僚の良いところを見つけて褒めましたか?小さな声かけが、大きな変化を生むことがあります。
6. 健康管理とメンタルケアの充実
介護業務は身体的にも精神的にも負担が大きく、職員の健康管理とメンタルケアは極めて重要です。定期的な健康チェックはもちろん、メンタルヘルスケアの体制整備も必要です。
医療法人香徳会の介護老人保健施設太陽苑では、公認心理師によるSOSの出し方など、新人職員向け研修に注力しています。また、株式会社きゃりこん.comとニチイケアパレスの共同プロジェクトでは、オンラインケア面談を活用して職員の不調を未然に防ぎ、人材定着を図る取り組みを行っています。
職員の健康状態に合わせた柔軟な働き方への配慮も重要です。社会福祉法人平成会では、職員の健康状態に応じて勤務形態を調整し、周囲にも情報共有することで、互いに支え合える環境を作っています。
心身の健康があってこそ、質の高いケアが提供できます。職員の健康を守ることは、利用者の幸せにもつながるのです。
7. 採用段階からの丁寧な関係構築
人材定着は採用段階から始まっています。求職者に対して施設の理念や働き方をしっかり伝え、ミスマッチを防ぐことが重要です。
エイムトップ株式会社では、仕事の流れをイメージしやすい採用ホームページを作成し、入職前のギャップを減らす工夫をしています。また、社会福祉法人大田幸陽会では、インターンシップや職場見学を通じて企業を知ってもらう機会を設け、入職後のミスマッチを防いでいます。
さらに、入職後の丁寧なフォローアップも欠かせません。社会福祉法人永春会では、新卒者を対象とした5日間の研修プログラムを実施し、職場への適応をサポートしています。

採用から育成、定着までの一貫したプロセスを設計することで、長期的な人材確保が可能になります。
あなたの施設では、新入職員に対してどのようなサポートを行っていますか?最初の数か月が、その後の定着を大きく左右します。
8. 組織の理念と価値観の共有
介護職員が長く働き続けるためには、組織の理念や価値観に共感できることが重要です。単なる仕事としてではなく、社会的意義のある活動として介護に取り組める環境づくりが必要です。
社会福祉法人江東園では、職場のブランドイメージを全員で作り上げる取り組みを行い、職員の帰属意識を高めています。また、社会福祉法人大三島育徳会では、職員が大学での講義を通じて自分の考えを発信する機会を設け、介護の価値を社会に伝える活動を支援しています。
理念や価値観の共有は、日々の業務の中で繰り返し行われることが重要です。朝礼やミーティングでの理念の確認、成功事例の共有などを通じて、職員全員が同じ方向を向いて働ける環境を作りましょう。
人材定着のための具体的な取り組み事例
ここからは、実際に介護施設で行われている人材定着のための具体的な取り組み事例をご紹介します。これらの事例を参考に、あなたの施設に合った施策を検討してみてください。
ICTとロボット技術の活用事例
社会福祉法人白寿会では、ICT化やロボット等の導入を積極的に行い、職員の負担軽減と業務効率化を実現しています。具体的には、介護記録システムの導入により記録業務の時間を短縮し、見守りセンサーの活用により夜間業務の負担を軽減しています。
また、社会福祉法人なごみ福祉会では、記録システムの導入により間接業務の時間を削減し、職員が利用者との関わりに集中できる環境を整えています。
ICTやロボット技術の導入は初期投資が必要ですが、長期的に見れば職員の負担軽減と定着率向上につながり、結果として人材確保のコスト削減にもなります。
柔軟な勤務体制の導入事例
社会福祉法人白寿会では、週休3日制を導入し、職員のワークライフバランスの向上を図っています。また、社会福祉法人永春会では、変則勤務や週休3日制の導入を検討するなど、多様な働き方を模索しています。
エイムトップ株式会社では、非常勤職員から正社員への雇用転換や、60歳以降の再雇用制度を整備し、様々なライフステージの職員が長く働ける環境を作っています。

柔軟な勤務体制は、特に子育て中の職員や介護と仕事の両立が必要な職員にとって大きなメリットとなります。「この施設だから働き続けられる」と思ってもらえる環境づくりが、人材定着の鍵です。
あなたの施設では、職員のライフステージに合わせた勤務体制を整えていますか?柔軟な働き方の実現は、人材確保の大きな武器になります。
キャリア支援と研修体制の充実事例
社会福祉法人あしなみでは、資格取得を後押しする職場風土を醸成し、職員のスキルアップを支援しています。また、非常勤から正職員へのキャリアチェンジを支援する仕組みも整えています。
社会福祉法人江東園では、同期の繋がりを大切にした研修体系を構築し、職員同士が学び合い、成長し合える環境を整えています。さらに、種別を超えた人材交流を行い、幅広い視点を持った人材育成を行っています。
エイムトップ株式会社では、月1回の外部研修参加を推奨し、非常勤職員も研修受講や資格取得支援の対象としています。これにより、全ての職員が成長できる環境を整えています。
職員の成長意欲に応える研修体制や資格取得支援は、モチベーション向上と定着率向上に大きく貢献します。投資と考えるのではなく、組織の成長のための必要経費と捉えましょう。
中小介護事業者が取り組むべき人材定着策
大規模な介護法人と比べて経営資源に限りがある中小介護事業者でも、工夫次第で効果的な人材定着策を実施することができます。ここでは、特に中小事業者に適した取り組みをご紹介します。
中小事業者ならではの強みを活かす
中小介護事業者の最大の強みは、「アットホームな職場環境」「意思決定の速さ」「経営者と職員の距離の近さ」などです。これらの強みを活かした人材定着策を考えましょう。
例えば、社会福祉法人万灯会では、管理者の受容的態度と利用者・職員の拠り所があることで、離職者ゼロという驚異的な成果を上げています。中小規模だからこそ、一人ひとりに寄り添ったケアが可能なのです。
また、社会福祉法人同朋会では、些細な出来事でも素早く気づいて対処し、職員が一人で問題を抱え込まない環境づくりを行っています。小規模組織だからこそ、問題の早期発見と迅速な対応が可能です。
中小事業者ならではの「顔の見える関係性」を大切にし、職員一人ひとりを大切にする組織文化を築きましょう。
外部リソースの効果的な活用
限られた経営資源の中で人材定着を図るためには、外部リソースの効果的な活用も重要です。地域の他施設との連携、行政の支援制度の活用、専門家の知見の導入などを検討しましょう。
社会福祉法人大三島育徳会では、近隣施設と連携して就職イベントを企画し、採用活動の効率化を図っています。また、「かいごのおたすけ採用隊」のような中小介護事業者専門の採用課題解決サービスを活用することで、専門的なノウハウを取り入れることも可能です。

外部研修や勉強会への参加も、職員の成長機会を提供する効果的な方法です。エイムトップ株式会社では、月1回の外部研修参加を推奨し、職員のスキルアップを支援しています。
限られたリソースを最大限に活用するためには、何に投資するかの優先順位付けが重要です。職員の声を聞きながら、最も効果的な施策を選択しましょう。
採用と定着の一体的な取り組み
中小介護事業者にとって、採用と定着は切り離せない課題です。新たな人材を確保するコストは、既存職員の定着を図るコストよりも高くなる傾向があります。
「かいごのおたすけ採用隊」のような中小介護事業者専門の採用課題解決サービスでは、単なる採用支援だけでなく、採用した人材の定着までを視野に入れたサポートを提供しています。月額10万円(税別・契約期間3ヶ月〜)で採用業務を完全代行し、中小事業者の特性と魅力を深く理解した上で、大手施設との差別化ポイントを明確にした採用戦略を策定します。
このようなサービスを活用することで、限られた経営資源の中でも効果的な採用・定着策を実施することが可能になります。
採用と定着は車の両輪です。どちらか一方だけに注力するのではなく、バランスの取れた施策を検討しましょう。
まとめ:人材定着は組織全体で取り組む継続的な課題
介護施設における人材の長期定着は、一朝一夕に実現するものではありません。組織全体で継続的に取り組むべき重要な課題です。
本記事でご紹介した8つの秘訣「処遇改善と公平な評価制度の構築」「働きやすい職場環境の整備」「多様な働き方の実現」「キャリア開発と成長機会の提供」「組織内コミュニケーションの活性化」「健康管理とメンタルケアの充実」「採用段階からの丁寧な関係構築」「組織の理念と価値観の共有」は、それぞれが単独で効果を発揮するものではなく、相互に関連し合って初めて大きな成果につながります。
重要なのは、自施設の状況に合わせて優先順位を付け、できることから着実に実行していくことです。全てを一度に実施する必要はありません。小さな成功体験を積み重ねることで、組織全体の変革につなげていきましょう。
人材定着の取り組みは、結果が出るまでに時間がかかることもあります。しかし、継続的な努力は必ず実を結びます。職員が「この施設で長く働きたい」と思える環境づくりに、今日から取り組んでみませんか?
介護人材の確保と定着にお悩みの中小介護事業者の方は、「かいごのおたすけ採用隊」にご相談ください。中小事業者の特性を理解した専門家が、あなたの施設に合った採用・定着戦略をご提案します。月額10万円(税別)で採用業務を完全代行し、人材確保の悩みを解決します。詳細はこちらからご確認いただけます。